マーケットをつくる開拓者であれ
【モルディブプロジェクト】

STWの歴史は、マーケット開拓の歴史である。1987年の創業当初、当時まったくの無名だったモルディブを、ハネムーンやリゾートの定番観光地としてプロデュースしたことでSTWの名前は一気に世の中に広まった。まだ誰にも紹介されていない場所を探し、新しい旅のカタチとして提案していくとはどういうことか。現在も進化を遂げるモルディブでのプロジェクトについて語る。


Profile

鹿島 義範

代表取締役社長。
大学卒業後、大手旅行会社に入社し、法人営業を担当。自主的にビーチリゾート企画も。29歳の時にSTWの前身である渋谷旅行センターを設立。

STWはモルディブ事業から始まった

今でこそハネムーンやリゾートの定番のモルディブだが、1980年代当時は無名の地だった。鹿島は、初めてモルディブを訪れたときの感動が忘れられないという。

鹿島 「良い海は魚影が濃いんです。モルディブを見たら他の海に行けなくなるほど、美しさの次元が違いました」

当時、日本人にとってビーチリゾートといえば、沖縄、ハワイ、グアム、サイパンの4択。“インド洋に浮かぶ真珠の首飾り”といわれるモルディブの海を、日本人に紹介することが自らのミッションであると考えた鹿島。29歳で独立し、モルディブを手掛けることを決めた。しかし、問題は山積みだったという。

鹿島 「リゾートホテルは少ないし、シャワーは海水混じり。ホテルもレストランも英語での接客のみ。現地で体調を崩そうものなら相当心細くなる環境でした」

ビジネスをするうえで特に困難だったのが、滞在期間。日本人は3〜4泊、多くて1週間の宿泊だが、欧米宿泊客がメインのモルディブのホテルは最低2週間からの宿泊プランしかなかった。

日本人が快適に過ごせる土壌がまったく整っておらず、まさに「市場の開拓」が必要だったという。

開拓のため世界中を飛び回る鹿島

市場を開拓し、とびきりの観光地としてプロデュースする

鹿島 「開拓で大事なのは、人間関係の構築です。裏表のないコミュニケーションが一番で、変に嘘をついたらおしまい。例えば、相手が手でカレーを食べても、その文化のない自分は『スプーンをください』と自然体でいる。そんな簡単なことも、損得が絡むとできなくなる人があまりに多い。差別や偏見の歴史があったモルディブの人は非常に敏感です。僕は3日で仲良くなりました」

まずは日本人の気質や文化を一つひとつ紹介し、互いの理解に努めた。モルディブ支店を設立し、現地での人間関係を継続したからこそ、交渉がスムーズに進み、日本人向けショートステイプランの創設や、日本語対応メニューの作成などが採用された。

また、現地に自社の日本人スタッフを配置することで、滞在中に何かトラブルがあった場合でも自社の水上ボートですぐに駆け付け、日本語対応するという手厚いサポートも実現。

STWのモルディブ開拓はどんどん進んでいった。

現地スタッフとSTW社員で集合写真

キャッチコピーは『地上最後の楽園』

現地の受け入れ体制の構築と同時に進めていたのが、日本でのプロモーションだ。『地上最後の楽園』というキャッチコピーをつくり、20代、30代向けの女性誌に特集を組んだり、テレビ出演をプロモートしたりするなど、マスメディアでの露出を数年かけて行った。

従来のリゾートラインナップとは一線を画したモルディブ旅は、旅行者だけでなく業界にも強烈なインパクトを与えた。STWのモルディブツアーは満員御礼状態となり、年間渡航者は4万人に激増。STWの直接集客と、グループ会社の間接集客を合わせると、旅行者の6〜7割がSTWを経由してモルディブを訪れていることになる。

他社にはない独自の強み「開拓者特権」

どの旅行会社よりも早く市場を0から開拓し、数々の実績を積み上げてきたSTWには、他社にはない特権が与えられた。そのひとつが桟橋への乗り付けだ。

鹿島 「モルディブのルールで、各リゾートはホテル所有のボートしか接岸できません。空港に到着すると、自分が宿泊するホテルのボートが迎えに来て、そのボートでホテルにチェックインをします。他のリゾート地には行けないのが基本。しかし、STWは市場の開拓者の特権として、取り扱う複数のリゾートに自社ボートを接岸でき、ツアーを自由に組むことができます」

日本の旅行会社でこの特権を持つのはSTWだけ。信頼と実績を築き上げてきたからこそ、無人島へのツアーなどの新たな体験をつくることができ、単に日本から送客するだけではない、旅行会社としての真の価値を発揮できている。

他にも、当時珍しかった飲食込みのオールインクルーシブプランを各リゾートに提案して定番化させたり、リゾートホテルの設計から関わって水上コテージやウェディング用の施設の建築に協力したりするなど、モルディブにおけるSTWの影響力は非常に大きい。

鹿島 「モルディブだけでなく、カリブ海の島々や、バリ島やマレーシアのランカウイ島なども当社が市場を切り拓きました。日本に本格的なアジアンリゾートブームをつくったのは私たちだという自負があります」

世界中には素晴らしい観光地がたくさん存在している。まだ誰も見たことのない旅の目的地をつくりだすため、STWは市場の開拓者として、新たな感動を探し続けている。