象が暮らす隠れ家ビーチ
【エレファント オン ザ ビーチ】

「観光地として古臭い」と人気低迷していたプーケット。様々な新規開拓を手掛けてきた、秋田に与えられたミッションは、プーケットを観光地として復活させること。同業他社が次々と撤退するなか、STWはどのように成功を勝ち取ったのか。心を動かすコンテンツをつくり、人気観光地にプロデュースするまでの過程を語る。


Profile

秋田 健三郎

1998年新卒入社。ゼネラルマネージャーとしてすべての販売・企画セクションを統括。海外新規事業にも携わる。

他社が見限った定番観光地、どうプロデュースする?

秋田は悩んでいた。プーケットに行く日本人観光客がどんどん減っていたからだ。

秋田 「日本からの直行便は無いし、“パトンビーチの海水浴とピピ島観光”は定番コースすぎて飽きられている。旅行コンテンツとしての硬直化が起こり、観光地として古臭いよね?と思われていたのがプーケットでした」

オフシーズンは特にひどくホテルはガラガラの状態。 他社が見切りをつけてどんどん撤退していくなか、STWはプーケット支店を新設するという逆張りで勝負を仕掛けた。

実は当時のプーケットには日本人が知らない隠れ家リゾートや、ガイドブック未掲載のカフェやショップが次々に出店していた。ダイバーしか知らない穴場ビーチも未開拓。プロデュース次第で化けるポテンシャルを持つ土地だったのだ。

秋田へのミッションはひとつ、「プーケットを観光地として復活させる」こと。一発逆転を成功させるには、新たな目玉となる観光コンテンツが必要だった。

当時の苦労を思い出して苦笑い

地味なビーチを五感に訴える感動体験へ

STWが目をつけたのは、意外にも非常に地味なビーチだった。

秋田 「そのビーチはプーケット支店に配属された新卒の女子社員が、Google Earthで見つけてくれました。特徴は、入江のように波が非常に穏やかなこと。そのためサーフィンやダイビングなど定番のマリンアクティビティ向きではありません。しかし、真っ白な砂浜が美しく、プーケット中心地からのアクセスも抜群でした」

問題はこのビーチをどうやって売り出し、新たな観光地とするか。古臭いイメージを払拭するには、斬新なアイディアが必要。そう思って秋田たちが目をつけたのが、「象」だった。

秋田 「タイといえば象乗り体験です。しかし、動物園や川だとありきたり。しかも、飼育員によるムチでの虐待や、鞍や椅子の設置による象への過度な負担など、様々な批判の的になることもしばしばでした。でも、象乗り体験ってすごく人気があるんです。だったら、解放感たっぷりのビーチで、鞍をつけずストレスフリーの象と自由に遊べるアクティビティなら面白いと思いました」

ビーチなら水着で象に乗れるため、象の背中を肌で直に感じられる。美しい砂浜での象乗りは、濁った川での体験とは比べ物にならないはず。

五感に訴える忘れられない感動体験を提供する新たな観光コンテンツを目指し、【エレファントオンザビーチ】プロジェクトが始動した。

しかし、秋田は海外で新規事業を始める難しさをすぐに痛感することになる。

確かに最初から違和感はあった

当たり前だが、STWには象に関するノウハウが全くなかった。

秋田 「普通の旅行会社なら象乗りツアーを提供する現地企業と契約しますが、僕たちは0からのスタート。象の購入代金も飼育方法も何も知らない。さすがに社内からも“本当にできるの?”と心配されました。社長は『面白いな、どんどんやれ』と応援してくれましたけど(笑)」

まずは情報を得るため、現地スタッフたちがプロに話を聞きに行った。しかし、「タイの伝統である象乗りを海外の会社ができるわけない」と相手にしてもらえない。

それでも現地スタッフたちの尽力により、1歳のオス象ドードーくんと、40歳の働き盛りのメス2頭、そしてマフー(象使い)を招き入れることができた。

地主と粘り強く交渉を続けた結果、他社が使用できないSTWだけのプライベートビーチも入手。

苦労はあったものの何とかビーチでの象乗り体験が始まった。すると、すぐに話題となり、欧米の観光客を中心に体験者が増え、確かな手応えを感じていた。

しかし、違和感があった。40歳の象2頭の動きが異様に鈍いのだ。

秋田 「観光客を乗せるためにしゃがむ動作も上手くできないし、全体的に元気がない。そんな様子を見た現地の人たちが、クスクスと笑っているんです。嫌な予感がして調べたら、メス象2頭、40歳じゃなくて78歳でした」(※象の寿命は80歳)

多額を投資したのに、営業中断の大ピンチ

業者に騙されていたことが発覚し、「ならば1歳のドードーくんに賭けるしかない…!」と奮起する秋田。しかし、さらなる追い討ちが。象乗り体験には気性が荒い(こともある)オス象や、これから発情期を迎える幼い象は不向きだったのだ。

秋田「ドードーくんも駄目かもしれない、と落ち込んでいたら、仕事にならないと悟ったマフー(象使い)が急遽『地元に帰る』と言ってきて。まだ仕事残っていたのに本当に帰ったんですよ」

象の購入・飼育やプライベートビーチ使用料などすでに多額の投資をしたにもかかわらず、今後の営業ができない大ピンチに。すぐさま新しい象を迎え入れる必要があったが、もうどこにも人脈は無かった。

焦る秋田たちのもとに1件の情報が入る。どうやら北部エリアに、ビーチで象乗り体験を行っている男性がいるらしい。現地ネットワークから無視されていた秋田たちだったが、最後の望みと思い彼のもとを訪ねた。

ビーチでの水遊びに慣れている象を紹介してほしいと頼んだところ、「俺の象はダメだ」と断られてしまった。やはり無理かと落ち込むスタッフに男性は次の言葉をかけた。

「しょうがないな、仲間に声をかけてやるよ」

秋田 「実は現地の象乗り体験のプロたちは、僕たちのことをずっと気にしていたみたいなんです。最初は『外国人にできるわけない』と疑っていたのが、僕たちが本当に象を迎え入れて無知なりに一生懸命だったのを見て、仲間として認めてくれたようで、本当に感謝しています」

そこからの展開は早かった。きちんとした目利きのもと紹介された20歳のメス象2頭と、信頼できるマフー(象使い)を迎え入れることができたのだ。

SNSで5万いいねを獲得する人気コンテンツへ成長

再スタートをきったエレファントオンザビーチ。あの地味な穴場ビーチが、現在ではピーク時で月に800万円を叩き出す人気コンテンツとなっている。

象とビーチで遊ぶインパクト抜群の投稿はSNSで一気に拡散され、5万いいねを獲得した。

秋田 「エレファントオンザビーチで恋人にプロポーズしたいという問い合わせも入りました。こちらの想像を超えた楽しみ方をしてくれるお客様が増えて驚いています。支店スタッフがアップしてくれる現地のお客様の写真が毎回楽しみなんですよ」

幸運なことに、人懐っこい性格だったドードーくんは、ビーチのアイドル的存在に成長している。

そんなドードーくんと肩を並べて海を眺める体験は、現地ネットワークに認められたSTWプーケット支店しか提供できない唯一無二のコンテンツである。

STWはコンテンツメーカーである

秋田 「企画づくりから、営業、仕入れ、販売、広報、販路開拓まですべてを自分たちで0から始めたプロジェクトがこんなに多くの人から反響をもらえるまで成長したのがとても嬉しいです」

旅行会社というと、「航空券とホテルをセット販売する」イメージがあるかもしれない。 しかし、STWは自らをコンテンツメーカー、つまりお客様を感動させるコンテンツを提供するのが旅行会社のあるべき姿だと考えている。

近年では、フィリピン旅を日中だけでなく夜も楽しめるようにするため、自社でエンターテイメントショーをオープンさせるなど、現地での楽しみの幅をどんどん広げている。

プーケットが【エレファントオンザビーチ】をきっかけに観光地としての魅力を増したように、今後もSTWは心を動かすコンテンツメーカーとして、世界中で創造力を発揮していく。